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悪魔にされた牧神パンの話―ギリシャ神話から現代まで―

 ギリシャ神話の伝説から その2

 さて、シュリンクスとは常に寄り添い、ピティスとも冠という形で身近に感じられるといういってみればある意味幸せな牧神パン。しかし神話の中では、いまいちさえない話が多いのも事実です。続いては、音楽の神アポロンとの演奏比べの話。

 ある時、何のはずみか牧神パンは音楽の神で竪琴の名手アポロンと腕比べをすることになりました。山の大勢の妖精たち、人間の木こり・農夫・羊飼いが見物に詰めかけたなか、審査をするのはここフリュギアの山の老神トモロス。正式な競技会でないがゆえの、お祭りムードいっぱいな会場の見物客の中に、実はちょっと変わった人物が来ていました。ミダス王です。彼は昔は大変欲張りな王様で、ひょんなことから恩を売ることになったディオニソス神に「とにかく黄金がたくさん欲しい」とお願いをしました。彼はその結果「触れれば全てがたちどころに黄金に変わる」という不思議な力を授かったものの、自分の食べ物飲み物さえ黄金になってしまうのを見て大変後悔し、その魔法が解けた後は慎ましく野山に交じって牧歌的な生活を送っていました。そんな日々の中で牧神パンと知り合い、仲良くなっていたのです。
 さて、腕比べが始まると、牧神パンの素朴なメロディーはなかなかの評判を得、本人もまんざらではない気分でした。もちろんミダス王も大喜び。しかし・・・アポロンの演奏が始まると、状況は一変。、その優雅で繊細で美しい調べに皆が酔いしれ、トモロスは即座にアポロンの勝利を告げました。しかし会場でただ一人ミダス王は納得がいきません。判定の公平さに異議を唱え、その結果アポロンの怒りを買ってしまうのです。「こんな愚鈍な耳はロバの耳になれ!」と魔法をかけられた途端、あわれ王の耳は長くのび毛深いロバの耳の姿に。もちろん会場は大爆笑。以後ミダス王は大きな帽子をかぶり、恥ずかしい己の姿を必死に隠す日々となりました。この後の話はよく知られた「王様の耳はロバの耳!」となるのですが、ここで秘密を広めるのに一役(?)買うのが何の因果かまたしても「葦」なのです。王様の秘密を知った床屋が戒厳令に我慢できず、地面に掘った穴に先のセリフを叫び飛ばして丁寧にその穴は埋めるのですが、その声を吸い上げて育った葦が風にそよぐたびセリフを歌い、あっという間に噂が町中に広まったというオチです。皆さん、この笛を吹くときはくれぐれも邪な気持ちで吹いてはいけませんよ。葦の花言葉は「神の信頼・音楽」ですからね。これは全ての楽器に言えることですが、演奏というのは嘘がつけない、その時の自分の感情がストレートに出てしまうものですから。ましてや「神の信頼」の花言葉を持つ葦の笛がルーツのこの楽器はなおさらなのかもしれません。

 少し話が横道にそれましたが、私としてはミダス王の耳は決して愚鈍ではないと断言したい!!そもそも、宮廷音楽である竪琴とこの笛とは比べるということ自体に矛盾があると思う。もし、西洋の優雅なフルートと、アフリカの力強いリズムの太鼓をどちらがいいかなんていわれても、あなたは選べます?最後は個人の好みとしか言えない。音楽とはそういうものだと私は思います。


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聖なる笛パンフルート―牧神パンと私―目次


パンフルートってどんな楽器?―その姿と名の由来―
悪魔にされた牧神パンの話―ギリシャ神話から現代まで―
音楽と農業の関係―自然のハーモニーと人間と―
パンフルートが響く世界に―牧神パンの想い―
おまけ―牧神パンがくれた恋?―

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